Vol.24 横濱夢語り@関内 戦後の野毛 闇市に憧れた少女

◆「ちょいとかくせ〜腹いっぱいにすいこんで〜」 作 中川由布子

敗戦後の闇市時代の横浜を舞台に貧しくとも明るく気丈に生き抜く四人姉妹の物語。
昭和20年代の野毛・横浜界隈。多感な少女・みちの目を通して描かれる路地裏の人々と暮らし。それは戦後の焼け跡、闇市を舞台とした「若草物語」である・・・

 「終戦直後、昭和二十年の秋ごろから桜木町駅近くの桜川沿いに露天の闇市がきのこのように発生し、増え続けていた。後にクジラ横丁とかカストリ横丁などと呼ばれ、物に飢えた大人たちでごったがえしていた。狭い路地には盛んに湯気をあげている屋台が立ちならび、おでん、雑炊、うどん、フライなどの屋台がならんでいる。クジラを焼く煙が、もうもうと立ち込め、その強烈な匂いが闇市を支配した。復員兵やぼろを着た大人たちは、なにが煮えているのか分からないもつ煮を食べ、メチルアルコールで作られた密造焼酎「カストリ」をコップでやっていた。
 みちは父に連れられてよく闇市に行ったが、大人たちがもつ煮をがつがつと食べる姿を眺めるだけで、おなかがいくらグーグーと鳴っても、眩暈で倒れそうになってもとても買える代物ではない。それでも野毛は敗戦のみじめさを忘れ、廃墟から立ち上がろうとする人々の生命力に溢れていた。」(本文から)

◆中川由布子◆
東京生まれ、横浜在住。横浜ペンクラブ、大衆文学研究会会員。横浜市役所を97年に定年退職し、これまで書きたいと思っていた小説を書き継ぎ念願かなって出版。